2004/06/17

生きる事


一緒に歩いていた友達が突然道ばたで叫ぶ「新しい職場で皆に馬鹿にされてるのが我慢出来ない〜」、彼女の能力を考えると無理も無い事である。女性である事による差別、今日本で進みつつある「職種別カースト制」による差別、自身の収入では食べて行けない「親掛かりの若手」の存在を前提とした低賃金体系の完成など、彼女を取り巻く環境は、自身の収入のみで生活していかねばならない中年にさしかかった独身女性にとって大変辛い物になりつつある。
ある雑居ビルの3階フロア、その片隅の事務所からの帰りに、以前良く行った店の前を通りかかったら、まだ開店前のドアが開いて、偶然顔を出してきたマスターが私に言う、「いつヤメようか迷っているうちに借金ばかりかさんでいる、もう戻れないが進む事も出来ない」、以前は活気があったこのビルも、所有会社の債務整理の対象となって売却されてからは、美容室やレストランに替わって、ヘルスやマッサージ、サラ金などが入り始め、普通の客の入りにくい環境になったことで、女性客が多かった彼の店はここ数年は赤字経営となっていた。多少はあった蓄えもすでに底をつき、いよいよ決心する時期になりつつあるようだ。この話の彼女も彼も、もうすぐ40代50代となり、今の日本ではまともな就職口は全くない。では以前はとりあえず再起する人々を受け入れていた「ガソリンスタンド」や「ファミレス」はセルフ化による人員減や、フリーターや主婦のように、自身の収入では食べていけなくても良い人達を対象とした超低賃金のせいで、いまや自立して生活して行くための職場としては機能していない。親も子も当てに出来ない単身生活者である彼らも(私も)、いずれは能力に見合った収入を得られなくなり、いずれ遠からず今の仕事を失い、低賃金の新しい仕事で僅かな蓄えも使い果たす消耗戦に突入する。そのときに我々を支えるはずの仕事であったはずの「トイレ掃除のおばさん」や「ビル掃除のおじさん」や「スタンドの夜間従業員」や「コンビニの深夜バイト」は、すでに前述の「食べて行く必要のない若者や主婦」に占領されていて、中高年単身生活者の入り込む余地はない。いま納めている国民年金では家賃も払えないのは解りきっている。つまり我々は、まず仕事の能力を過小評価されるようになり、その評価に見合った賃金体系に組み入れられ、その賃金体系下では当然年金納付や健保納付は不可能となり(現在の未納者はほぼ自営業と契約社員である)、家賃も払えないのでホームレスとなり、その日暮らしとなるのである。この事をしっかりと自覚していなければ、自身の生きる道をあやまる事になると思う。たかが数千万の蓄えではこの流れから逃げる事は出来ない。いまはまだ友達と飲み、サッカーを観、車を買い換え、温泉にも行く生活をしていても、50代も後半になる頃には、都市で生活する単身者にはもう生きて行く術は限られているのだ、われわれの一生はこのような物だということを自覚して、道ばたで死んで行く事を受け入れて行かねばならない、そういう時代に日本はなっている。

2004/06/09

せつない思い

夕暮れの街、速度を上げて帰宅を急ぐ車の流れの中で、幾分戸惑う様な素振りで道路の左端を走って行くのは、僕の友達の乗った白いスクーターだ。若い頃には結構美人でわがままだった彼女も、結婚そして離婚、不倫の果ての摂食障害と対人恐怖からの引きこもりから、大変辛い努力をしながらも次第に立ち直りつつある証拠が、最近買った「白いスクーター」での夕暮れのお出かけなのだ、まだCDショップやショッピングセンターなどに寄って、カフェのテラスでちょっとだけお茶をして誰とも話さずに帰って来るだけだけど、いずれはコスメショップで以前のように化粧品を買いに行きたいって上目使いにはにかみながら話す彼女は、今スクーターに乗って、交差点で立ち止まる僕の前を通過して、夕暮れの街の中に赤いテールランプを輝かせながら消えてゆく。

すっかり暮れてしまい人通りも少なくなって来た街角の雑居ビル、階段の踊り場でカフェモカのカップを手にタバコに火を点ける彼女は昼間は小さな工場で働いているが、夜はこの街の風俗店で週2回働いている。子供を預けている母親にはコンパニオンをしていると言っておいてのこの仕事だが、彼女自身なぜ続けているのかわからない。結婚して子供が生まれ、なんとなく離婚して実家に帰ってからは、生活費もほとんどかからず、紹介されて入った職場での給料もほとんど自身の買い物に使っていて、別段収入に不足は無い。離婚した当初はごたごたしていた男関係も自然に無くなり、最近はもう数年続いている職場の妻子持ちとの不倫だけだが、特別に好きという訳でもなく、ただ何となく他の人を好きになっては悪いと思っている程度で、そのせいか、最近彼女の事をデートに誘ってくれる男友達ともそれ以上の関係になるつもりは無い。どうも自分を本当に愛してくれているのはその男だけだと思いながらも、これ以上親しい関係になるつもりもなく、でも離れていかれるのも何となく寂しいような気もする。いずれにしても皆には秘密にしているこの生活も、いずれは年齢のせいで変えていかなければと思っているが、結局はその時々の年齢でもできる風俗を見つけて同じように続けていくと感じている。店の他の女の子にはお金のためだと言ってあるが、自分でも本当に解らない、結構迷いながらもいつも買うのは同じ「カフェモカ」なのと同じに。

人影もまばらな深夜の地下鉄の車内で小さい背中を丸くかがめて技術書を読んでいる彼女は、小さな会社でシステムの仕事をしている。学校を出てから付き合っていた友達の紹介で知り合った男と結婚して、初めて行った遠くの街で、ほとんど働かない男からの暴力と性的な虐待のために、心に大きな傷を受けて別れて出て来たこの街で、心をささえてくれる人を探している。これまでいつでも男はいて、その時々に心の崩れて行くのを支えてくれていたとは思うのだけれど、結局は別れて永くは続かないと何時でも思っていて、その通り永くは続かない。気がつくと友達も居ないし、友達を作る気もない。いつでも周りに振り回されるくせに、周りに溶け込む事を恐れている。毎日歩いている街に幾分の恐れを抱きながらも、自分を支えてくれる人を探して、今日も一人深夜の地下鉄で運ばれて行く。